コラム
政府も推進する新ビジネスモデル 系統用蓄電池事業
今、エネルギー業界では系統用蓄電池ビジネスの話題で持ちきりです。
固定価格買取制度(FIT)が実質的に終了し、新たな発電所の開発案件が減少する中、入れ替わるように登場したのが系統用蓄電池ビジネスモデルです。
金融機関は、系統用蓄電池を太陽光発電に代わる次世代の新たな投資先と期待を寄せています。
一方で、系統用蓄電池ビジネスは発電ビジネスよりモデルや収益の構造をイメージし難いことが課題です。
「系統用蓄電池ビジネスは具体的に何をするビジネスなのか見当もつかない…」
「系統用蓄電池ビジネスは発電事業よりも難しくノウハウを豊富にそろえないと手を出すことができない…」など、
新事業の参入に二の足を踏む企業が少なくないのが現状です。
日本は脱炭素の推進、エネルギーコストの低減などの課題を早期解決するために、再生可能エネルギーの導入を更に加速することは、間違いありません。
太陽光発電、風力発電という出力が変動する再生可能エネルギーの導入加速への対策として、系統用蓄電池のニーズは今後更に高まることでしょう。
発電と電力小売の2つの側面を併せ持つ系統用蓄電池ビジネスは、エネルギー事業者だけでなく、新規参入者にとって大きな利益をもたらすことでしょう。
本記事では、系統用蓄電池ビジネスを基礎から体系的に解説します。
[目次]
1.系統用蓄電池事業のビジネスモデル
2.系統用蓄電池が注目されている背景
3.収益性とBCP対策
4.政府が推進する「系統用蓄電池事業」
5.系統用蓄電池事業の市場規模
6.節税対策としても活用可能?!「分譲型 系統用蓄電池事業」
再生可能エネルギー業界において最近よく耳にする「系統用蓄電池」
系統用蓄電池とは、電力系統や再生可能エネルギー発電所などに接続する蓄電池の一種で
太陽光発電や風力発電などを利用して蓄えた電力を、
家庭や建物の電力需要を補完するために使用する蓄電池のことを指します。
一般的には家庭や商業施設、産業用施設などで利用されており、電力の需要が高い時間帯や停電時に備えて、
電力の安定した供給を実現するために導入されています。
再生可能エネルギーの出力変動を平滑化し、需給バランスを調整したり、周波数や電圧の制御を行ったりすることで、
電力系統の品質や信頼性を向上させることも特徴です。
また、10MW以上の蓄電池は「発電所」として扱われ、これにより系統用蓄電池事業者は発電事業者と同様に、
系統の利用料や調達価格等に関する契約を締結することが可能になります。
近年各メーカーも新機能を搭載した蓄電池の発売を発表しており、蓄電池の他に必要な設備(パワコン、EMSなど)が
コンテナ内に全て収納された一括型の系統用蓄電池システムなど、実用性・安全性に優れた製品も各メーカーから発表されています。
太陽光発電や風力発電と「系統用蓄電池」は相性がよく、これまでせっかく発電しても出力抑制により
廃棄していた電力を、蓄電池に貯めておき需要の高まるタイミングで放電するという新たな方法が重要視されています。
さらに旧FIT制度に代わって国が推進しているFIP制度(再生可能エネルギーの発電事業者に対して、
市場価格に一定のプレミアムを上乗せした価格で電力を買い取る制度)を利用して
電力を売買する、新たなビジネスモデルも注目されています。
このFIP制度では、発電事業者は市場価格の変動に応じて発電量を調整する必要があり、
大容量蓄電池を併用することで、余剰電力を蓄えたり不足分を補ったりすることが可能になります。
新しい蓄電池の運用方法である「系統用蓄電池事業」は、
主に2つの観点から利益を高められる設備として認識されているため、近年注目され始めています。
💡´-初期費用負担が軽減されつつある
蓄電池の初期費用は低減傾向で推移しているので、導入時の負担を抑えられる状況に変わりつつあります。
また低コストで導入できれば、系統用蓄電池の収益で早期回収が見込めます。
ですので、系統用蓄電池が注目されているというわけです。
蓄電池の初期費用は、これまで1kWhあたり10~20万円程度でしたが、
近年では過去の費用相場と比較して半額相当額の1kWhあたり6万円程度の価格帯に下落しています。
💡´-電力市場の単価が変動しやすく利益幅が大きい
電力の市場単価が変動しやすい環境へ変化したのも、系統用蓄電池が注目を集めている理由のひとつです。
電力市場の単価は、時間帯によって大きく変動しています。主な要因は、電気代の値上げや出力制御の増加です。
つまり電力需要の低い時間帯は単価が低くなり、夕方や夜間・朝など電力需要の高い時間帯は単価が高い傾向になります。
そのため、電力需要の低い時間帯に系統用蓄電池へ充電することで、買電コストを抑えられます。
反対に電力需要の高い時間帯に充電しておいた電気を売電することで、高い収益を期待することが可能なのです。
このように、充電コストの軽減や売電収益の向上を図れる環境に変化し始めたのは、注目される要因のひとつと言えます。
💡´-電力市場で収益を得られる
系統用蓄電池の主なメリットは、電力市場(JEPX)を活用して利益を得られることです。
これまで蓄電池の主な運用方法は、太陽光発電システムや風力発電に併設され、余剰電力の充電および自家消費を目的としたものでした。
しかし自家消費のみでは収益を得ることが難しいため、利益を確保したい企業にとって課題でもあります。
系統用蓄電池として導入すれば、充電しておいた電気を電力市場で売電をすることが可能になります。
また、電力需要の低い時間帯に安く電気を購入し、単価の高い時間帯に売電すれば、収益の向上を図れビジネスモデルとしても期待できます。
例えば、1kWhあたり1円の状況で電気を購入、蓄電池に充電し、1kWhあたり10円の時間帯に売電すれば、「10円-1円=1kWh9円」の利益を得られます。
そのため、電力市場価格と消費者の需要に沿って系統用蓄電池を制御できるかどうかが、事業を展開させる上で最も重要なポイントと言えます。
💡´-ピークカットによる電気料金削減効果
系統用蓄電池を自社の施設へ接続しておくと、ピークカットによる電気料金の削減効果も期待できます。
高圧・特別高圧電力の実量制プランは、当月を含む過去12ヵ月間の電気使用量を基準に基本料金が算出されます。
各時間帯の平均的な電気使用量は、30分単位で計測・計算されています。
30分単位の電気使用量はデマンドという単位で、過去12ヵ月間で最も高いデマンドは、最大デマンドと呼ばれています。
万が一最大デマンドを超えてしまった場合は基本料金が値上げされてしまうので、注意すべきポイントです。
系統用蓄電池を導入した場合、これまでの平均電気料金を超えてしまいそうな場合自家消費ができるため、基本料金の削減効果につながります。
💡´-非常用電源としても役立つ
系統用蓄電池を自社の建物や設備に接続しておけば、非常用電源としても活用できます。
日本は台風や地震といった災害の多い環境なので、非常時における事業の復旧方法や従業員の安全対策などについて日々対策を進める必要があります。
今回の系統用蓄電池の場合、ガソリンやガス式の発電設備と異なって燃料の保管スペースが不要なため、燃料の保管方法に悩んでいる企業にも導入しやすい設備です。
電力ネットワークの安定化を目的とする系統用蓄電池は、新たなビジネスとして市場が急拡大しています。
経済産業省によると、2021年10月に策定された第6次エネルギー基本計画において、
系統用蓄電池のエネルギーリソースを有効活用していくことが示されています。
💡´-電気事業法改正で系統用蓄電池が事業へ位置づけ
2022年5月に改正された電気事業法は、電力を安定供給し、調整する役割を持つ系統用蓄電池を事業として位置づけることが決定しました。
これまでの電気事業法にならって、揚水発電と同様に1万kW以上の系統用蓄電池を発電事業として、2023年4月より施行されます。
また、トラブルが発生した際、電力系統に大きな支障を及ぼさないように、設備容量などを把握するだけでなく、保安規制などの検討も進められています。
系統用蓄電池は、脱炭素電源との併用により、ますます電力が安定供給できることが期待されています。
初期費用の低減とも相まって、大幅な導入が実現することが見込まれています。
💡´-アグリゲーターとメーカー、運用企業の3者で構成
系統用蓄電池事業のビジネスモデルは、
系統用蓄電池の導入・運用企業と管理サポートを担うアグリゲーター・蓄電池の開発製造を行なうメーカーの3者で成り立っています。
メーカーは、低コスト・高性能な蓄電池を製造することで、系統用蓄電池事業の普及に貢献でき、ビジネスモデルを支える重要な立ち位置ともなります。
運用する企業は、メーカーから販売されている産業用蓄電池の購入や用地の確保、施工業者の選定・手続きなどを進める役割を担います。
そして、設置後に電力の売買やシステムの管理を行ない発電事業の安定経営をサポートするのが、アグリゲーターです。
電気事業法の改正により、系統用蓄電池は発電事業として市場規模を拡大し続けています。
💡´-蓄電池の市場規模は年々拡大
太陽光発電や蓄電池の導入が増えることにより、脱炭素社会が実現しつつあります。
2035年には、定置用蓄電池の市場規模が3兆4460億円になると予測がでています。
中でも系統用蓄電池に関しては、2020年と比較して5倍も拡大される見込みです。
なお、定置用蓄電池の種類には以下のようなものが挙げられます。
・鉛蓄電池
・ニッケル水素電池
・リチウムイオン電池
・ナトリウム硫黄電池
・レドックスフロー電池
中でも、ナトリウム硫黄電池や鉛蓄電池はコストが低いというメリットがあります。
またレドックスフロー電池は、充放電サイクルの寿命が長く、大型の設備に向いているという特徴があります。
現在、導入拡大に向けて、各メーカーが設計を見直すなどして価格を下げる努力を行なっているので、価格競争も進展することでしょう。
【分譲型】系統用蓄電池事業は、1つの蓄電所を1区画ごとに分けて販売するシェアリングシステムを採用したプランです。
従来の系統用蓄電池の蓄電所は10億円弱の投資が必要でしたが、分譲型であれば1500万円程度からの費用で導入が可能になりました。
1区画単位で購入すれば、従来の初期費用と比較すると少額で、より多くの人が系統用蓄電池への参入が可能となります。
系統用蓄電池事業は、環境問題への貢献と節税効果を期待できる魅力的なビジネスモデルと言えるでしょう。