コラム
系統用蓄電池事業 参入企業-電気事業ノウハウのない企業も進出-
系統用蓄電池は再生可能エネルギーの不規則な出力変動の吸収など、電力系統の安定化に寄与することを目的としています。
様々な取り組みを通じて、カーボンニュートラルの実現に向け貢献する企業が増加傾向にあります。
今回は、系統用蓄電池を所有するメインプレーヤーとなる企業側が、どのような強みを生かして、
どのような企業が、この新たなビジネスに参入しようとしているのだろうか解説します。
【目次】
1.系統用蓄電池事業に参入した企業の分類
1-1🔶本業とシナジーを生み出せる第1グループ
1-2🔶電力市場取引のノウハウを持つ第2グループ
1-3🔶太陽光発電などFIT制度を活用して収益を得ている第3グループ
1-4🔶遊休地を保有している第4グループ
2.試行錯誤トライアンドエラーで先行利益が得られる
系統用蓄電池事業のメインプレーヤーは主に4つに分類できます。
第1が大手電力会社を中心とする企業群。
第2が電力市場取引 のノウハウを持つ企業群。
[具体的には大手都市ガス会社や石油元売り会社、総合商社など社内に電気事業部門を備えている企業]
第3が太陽光発電関連企業群。
[太陽光発電を中心にFIT制度を活用して収益を得ている発電事業者 、EPC(設計・調達・建設)、不動産、リースなどを手掛ける企業]
第4が発電事業や新電力事業といった電力ビジネスの経験はないが、遊休地を保有しており、
系統用蓄電池を通じて資産活用を実現しようとする企業群。
[金融機関、 自治体、物流事業者、流通小売事業者など業種は多岐にわたります(図1)。]
🔶本業とシナジーを生み出せる第1グループ
第1グループの大手電力の中で、先行して動いたのは関西電力と九州電力です。
もっとも早く動いたのは関西電力で、2022年7月にオリックスと共同出資で「紀の川蓄電所合同会社」を設立し、
出力48MW・容量113MWhの系統用蓄電池を設置すると発表しました。
その3カ月後には、子会社である関電エネルギーソリューション(大阪市)が、
仙台市に出力約10MW・容量約40MWhの系統用蓄電池を設置すると発表するなど、
立て続けに新規プロジェクトを公表したことから注目を集めました。
一方で九州電力は、2022年8月に福岡県大牟田市において、
NExT-e Solutions(ネクスト・イー・ソリューションズ、東京・世田谷)と
電動フォークリフトの使用済みバッテリーを再利用した系統用蓄電池の運用を開始しました。
大手電力は、系統用蓄電池ビジネスでの収益化に加え、再生可能エネルギーの拡大と安定供給との両立への寄与を目指しています。
政府は2050年カーボンニュートラルおよび2030年度の温室効果ガス排出量を
2013年度比で46%削減する目標を掲げ 、再エネの主力電源化を推進しています。
一方で、再エネなどの発電量が需要を上回る場合には、発電を抑制する出力制御を実施している現状。
しかも、出力制御は2022年春以降、実施地域が拡大しています。
出力制御を行う反面、構造的な電力不足も顕在化しています。
2022年3月には、主に東京エリアで電力需要量が供給量を上回る厳しい見込みとなったため、
全国で初めて「電力需給ひっ迫警報」が発令され、これを機に再エネ出力制御を実施した際の余剰電力の有効活用が、
安定供給に寄与する重要な取り組みと認識されるようになりました。
このような状況を踏まえ、大手電力は出力制御時の余剰電力の有効活用により脱炭素を推進し、新たな調整力を創出するべく、
系統用蓄電池ビジネスに取り組み始めたのです。
大手電力各社の系統用蓄電池事業は、電力需給の安定化を図りながら、
日本卸電力取引所(JEPX)や需給調整市場、容量市場を組み合わせて収益化するビジネスモデルを目指しています。
2023年になると四国電力 、東京電力 ホールディングスが追随しました。
エリアごとに再エネの導入量や電力需要などが異なることから、大手電力の市場参入のモチベーションは一様ではありません。
ただし、今後も再エネ電力の導入が進むことが見込まれるエリア、特に北海道、東北、中部の大手電力は、
積極的に系統用蓄電池ビジネスに取り組むことが想定されます。
系統用蓄電池事業への参入を決めた大手電力からは、
「FITの買取期間が終了して卒FIT電源が増加するに伴って調整力のニーズはますます拡大するため、蓄電ビジネスは収益機会に恵まれている」
といった声が聞こえてくるくらいです。電力事業関係者も蓄電池ビジネスへの魅力を感じていることがうかがえます。
加えて、関電や四電が公表しているように電力需給の安定化や再エネ導入加速への寄与も狙いの一つだろうとも言われています。
🔶電力市場取引のノウハウを持つ第2グループ
第2グループは電力市場取引のノウハウを持つ企業群で、
新電力事業や発電事業を手がける大手都市ガス会社や石油元売り会社、総合商社などです。
このグループの事業者は、資本力も十分にあり、電力ビジネス人材の層も厚いため、
大手電力に匹敵するポジションになることも十分に期待できます。
実際、当事者の関係者周囲も、その気概を持って事業を推進している人が多く、次のような声が聞こえます。
第2グループの最近の動きをみてみると…例えば石油元売り会社では、
ENEOSが2021年度の「再生可能エネルギー導入加速化に向けた系統用蓄電池等導入支援事業」という
補助事業で25億円もの補助金交付を受けて、北海道室蘭市で国内最大級の
出力50MW・容量88MWhの系統用蓄電池を設置し、2024年4月には充放電の遠隔制御を開始しています。
ENEOSは、VPP(Virtual Power Plant:仮想発電所)事業で積み上げたノウハウを基に、季節や市場価格のトレンドに応じて
JEPXや需給調整市場での最適取引を選択するための運転制御アルゴリズムを開発しています。
複数市場でのマルチユースを前提とした系統用蓄電池の最適制御は一朝一夕でできるものではなく、
同社の有する電力ビジネスの深い知見を基盤としています。
一方、ENEOSと並ぶ石油元売り業界のトップ企業である出光興産は、
2023年8月にレノバ、長瀬産業、SMFLみらいパートナーズ(東京・千代田)と
共同出資して合同会社姫路蓄電所を設立、系統用蓄電池ビジネスに参入することを発表しました。
このプロジェクトは、日本で初めて系統用蓄電池事業でプロジェクトファイナンスの組成を実現した事例として注目を集めました。
都市ガス事業者では、特に大阪ガスが意欲的のようです。
EV(電気自動車)リユース蓄電池や系統用蓄電池を運用し、さらに子会社のOsaka Gas USA Corporationは、
米ニューヨーク州で系統用蓄電池事業を始めるなど、多岐にわたる蓄電ビジネスに挑戦している状況です。
2024年5月には、GSユアサとPCS(パワーコンディショナー)併設型蓄電池システムを用いた
実証試験を実施することも発表しました。これは、従来別々に設置が必要であったPCSを蓄電池と一体化することで設備を小型化し、
設備の運搬・搬入の簡易化や狭小地への設置を実現するためのものであります。
総合商社では伊藤忠商事が頭一つ抜きんでている現状で、
同社は2021年に東京センチュリーと共同出資でIBeeT(東京・千代田)を設立しました。
伊藤忠は2018年の英Moixa Technology(モイクサテクノロジー)への出資後、
AIソフトウエア「Gridshare」を用いた充放電最適化機能を持つ蓄電池の販売を開始し、
IBeeTを通じてサブスクリプションサービスを手掛けてきました。
2022年8月、米国を中心に住宅用蓄電池を手掛ける米Lunar Energy(ルナエナジー)が
モイクサテクノロジーの全株式を取得しましたが、伊藤忠はその後もルナエナジーとの提携を通じて
Gridshareのさらなる普及を図るとしています。2023年6月には大ガスおよび東急センチュリーと、
同年7月にはIBeeTを通じ東急不動産の再エネ事業会社リエネ(東京・渋谷)と
合弁でSPCを設立し、系統用蓄電池ビジネスへの参入も果たしています。
2023年12月には、国内初の系統用蓄電池専業の投資ファンドを創設することを発表あし、
東京都からの出資20億円を含め最大100億円規模のファンド組成を目指す。
黎明期にある系統用蓄電池開発の資金調達手法の多様化を推進しようとする伊藤忠の動きは、
他の総合商社と比べても一歩先んじた活動といえるでしょう。
🔶太陽光発電などFIT制度を活用して収益を得ている第3グループ
第3グループのメインストリームは、太陽光バブル時代と呼ばれるFIT開始当初、
積極的に太陽光発電に投資をしてきた事業者であり、
太陽光に次ぐ新たな収益の柱を系統用蓄電池ビジネスに求めている事業者です。
FITの買取価格は、2012年度の開始時には40円/kWhでしたが、
年々低下し 、2019年度以降は15円/kWhを下回る水準となりました。
これを受け、太陽光発電事業の後継として系統用蓄電池ビジネスに期待する 声も近年よく聞くようになりました。
第3グループで先行して動いたのは大手太陽光デベロッパー、パシフィコ・エナジー(東京・港)です。
同社は2012年のFIT開始以来、合計1.5GW以上の太陽光発電所を開発してきました。
2022年に蓄電池事業に着手し、北海道札幌市、
福岡県糸島市と相次いで2MWの蓄電所建設を着工し、2023年6月に商業運転を開始している。
第3グループのメリットは、太陽光発電事業で培った経験を転用できるという点があり、
系統用蓄電池ビジネスでは、系統の空き容量がある土地の確保、
設置工事、系統連系のための一般送配電事業者への契約手続きと設置までのフローが太陽光発電事業と同様です。
系統用蓄電池は、設置に必要となる土地面積が太陽光発電所の数十分の一で済むほか、日陰に設置することもできることも利点です。
またメンテナンスは、太陽光発電所とほとんど同等の水準での実施でこと足ります。。
ただし、電力ビジネスへの関わりは設備の設置までに限定され、実際に電力市場で取引をしたり、
需給管理業務を手掛ける人材は少ないのです。
信頼できる運用パートナーを得るか、運用を内製化しノウハウを蓄積する必要があります。
前出の不動産会社は、「当社の再エネ電源ではFIPを利用しているし、新電力事業の経験もあるため、
電力取引に全くノウハウがないわけではない。新しい収益の柱として期待しているので、
積極的にノウハウを積み重ねて社内で内製化することを目指すべきだ」と意欲を見せています。
🔶遊休地を保有している第4グループ
第4グループに属する事業者の業種は多岐にわたります。
例えば、金融機関や自治体は、ESG投資や脱炭素化の推進が最重要課題とされる風潮にあって、
再エネ発電の導入増加に伴う系統安定の支援という名目で系統用蓄電池ビジネスへの興味や関心を深めています。
少し後ろ向きなものでは、「脱炭素化支援を担う組織を新設したが、紹介できるプロダクトやサービスがない」
といった声をよく聞きますが、一方で明確な目的も持って、系統用蓄電池ビジネスに取り組もうとしている自治体や事業者も…。
このコメントのように、地域の再エネ発電の導入拡大を目的として、系統用蓄電池の導入を推進しようとしています。
【出典:いこま市HPより】
その一例が奈良県生駒市 で、2017年にエネルギーの地産地消を目指し地域新電力「いこま市民パワー」を設立し、
市内10カ所以上の太陽光、小水力発電所から電力を調達し、市民へ供給し、
近年は、再エネ100%供給を目指し、系統用蓄電池導入も進めています。
また、物流事業者や流通小売事業者 は、太陽光発電と比べた時の投資効果を期待しているそうです。
いずれのケースにせよ、第4グループの事業者の成功要因は、運用を含めたパートナーを選定する鑑識眼であり、
太陽光発電事業で培った経験を持つ第3グループとは異なり、第4グループに属する事業者は電力に関わるノウハウが少ないため、
系統用蓄電池の導入から運用までを支援してくれるパートナーが不可欠です。
系統用蓄電池ビジネスは蓄電池の選定、補助金の有無、そして電力市場取引の方法などによって収益性が大きく変わるため、
知見や実績ももちろん重要だが、「収益に対してどれくらい貢献してくれるか」という視点で評価する必要があるのです。
系統用蓄電池ビジネスが始まったばかりの時点では、
プレーヤーは第1グループや第2グループに属する伝統的なエネルギー企業が中心でしたが、
現在では、第3グループや第4グループなど異業種からもこの市場に積極的に参入してきています。
そして今後は、第3および第4のグループの勢いが増すと見込まれています 。
第1および第2グループは本業のノウハウを転用できるアドバンテージを持ち、また本業の強化と目的も明確であるため、
今後も着実に事業を推進していくだろうとの見方が強まっています。
一方で第3および第4グループは必ずしもエネルギーが本業ではないため、
これまでのところは主に数MW単位の小規模な案件で様子を見ながら導入するといった傾向が目立っていました。
ですが、 収益性の確保ができるという算段がつけば、太陽光バブル時代さながらのスピードで事業を進める可能性があります。
投資家の周囲でも、
「FITと同様、あるいはそれ以上の収益を見込めることさえ確認できれば、複数カ所展開していきたい」(太陽光発電事業者)など、
積極的な姿勢を見せる事業者が少なくない状況です。
一方、系統用蓄電池ビジネスの収益性を大きく左右するのは電力市場取引の巧拙であり、第1および第2グループに優位性があります。
ですが、複数の電力市場のマルチユースといった点に関しては、どのグループもほぼゼロからのスタートであり、
一朝一夕にノウハウは積み上がらないことから、トライアンドエラー(試行錯誤)で小さな失敗を早く積み上げ、
電力市場取引のノウハウを読み解いた企業が先行者利益を得ることができるでしょう。
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系統用蓄電池事業へ参加できることは、現在時点の場合だと、
資金力があり、将来的な投資としてお金が使える企業に限られているようにみえるかもしれません。
導入コストの課題をクリアできるのは、弊社のシェアリングシステム「分譲型 系統用蓄電池事業」導入で、
初期費用を抑え、より多くの企業が参入できるプランを採用可能にいたしました。
「系統用蓄電池」は、脱炭素実現のためには必要なシステムの1つであることは間違いなく、
収益性が見込めるビジネスとしても今後、需要拡大する事業と期待されています。
「分譲型 系統用蓄電池事業」についての詳細情報は… 分譲型 系統用蓄電池 ⇦こちら
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